2015年12月9日水曜日

雅支部通信 第55号・・・いとざくら 今亡き母の肩に似て(H24.4.1)

磨った墨が固まる
 まず、安価な墨と高価な墨の違いです。墨は現在も手作りのため、墨の価格には原料の価格と職人さんの技量が大きく反映します。とくに原材料は、安価な煤(すす)から高価な手焚き油煙、さsらには貴重な純植物性松煙まで、その価格差は百倍以上です。また高価な墨は熟練の職人さんが作り、安価な墨は経験の少ない職人さんが作ることが多いため、人件費の違いも影響します。ただし、墨の良しあしは値段だけによるものではなく、安価でも品質の良いものが多数あるというから難しい。。。。
 そこで墨の良し悪しを見分ける方法は?というと、墨づくりの大事なポイントは均一な流れの良い膠液(にかわえき)をつくり、煤とよく練り合わせることです。墨の型は梨の木で作られているため、この型の木目が墨の肌に写っているものが練の良く効いた墨だといえます。また、新墨で軽いものは良くありません。市販の墨は大半が五年以下のものですから、持ち重りのする墨肌の緻密なものを選びましょう。もちろん、信頼のできる墨のプロがいるお店で相談するのも、上手な買い方です。
 また、小字、細字や写経用はのびの良い墨が好まれる傾向にあります。したがって、かな用は粒子が細かい油煙を原料とするため、流れは良いのですが黒味は弱くなります。一方漢字用は黒味を大切にするため、一般的には細かい煤を使いません。漢字用をかなに使っても問題なく、作品制作の上で黒色を強く出したいときは漢字用、黒味を抑え品よく表現したいときはかな用を使うと良いでしょう。
 摩墨した墨がゲル化(ゼリー状に固まること)するのは膠の性質からくるものです。膠は水温が十八度以下になると固まります。冬場、硯が冷えていたり水温が低い場合、すり下ろした墨が分散せず、発墨しなくなります。分散の良い摩墨液をつくるには、冬でも室温を20度以上に保つか、硯に40度程度のお湯を注いで磨るか、硯を温めるかの工夫が必要になってきます。
 墨は古いほど良いといわれてますがなぜかと言いますと、煤を練って固めるのに必要な膠の量が、書くときに必要とする膠の量より多いため、新墨は「粘る」「筆が重たい」と感じられます。膠はゼラチンを主成分とするタンパク質の一種であり、水の中で高分子から低分子へと変化します(加水分解)。
 新墨は水分を多く含み、製造後3~5年で加水分解が進んで膠の粘度が低下します。その結果、運筆が軽くなり濃墨でも書きやすくなります。また経年とともに煤を分散させる力も弱まるため、運筆の基線が残り、透明感のあるにじみが表現できます。墨が古いほど良いと言われる所以です。良い条件で保管された名墨は百年二百年もちます。(参考資料「墨」誌ほか)

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