中国の書の歴史・・・その16
通信75号で蘭亭序の文章には即興の草稿であるため誤字めいたもの、異体字等々があると書きましたが「墨」誌、王羲之特集号の中に紹介されている源川源鋒二松学舎大教授の「蘭亭序の中の異体字」を参考に抜粋します。
「禾偏に契」の字=禾偏の「契」の字はない。漢隷には示偏を禾偏に作った例はままある。王羲之はこれによった。
「契」=刀部分に点を加えているが点は不要である。これも漢隷に典拠している。
「峻領」=しゅんれい、「高い山」という意味なので、領には山冠が必要である。しかし漢隷の世界では「領」を「嶺」とみなしていた。今日、蘭亭序を創作で発表するなら領字は嶺字で書くべきである。
「攬」=この字は覧が正しい。避諱(ひき=死者の生前の本名を避ける)の風によって手偏の字に変えた「覧」字でないと「みる」とは読めない。
以上のように作品を作る際は誤字には十分注意を払わなければいけまあせんが、これがなかなか難しい。今使われている常用漢字は2,136字、歴代辞書に収められている字の数は、漢代の<説文解字>で約9,000字、南朝<玉篇>約20,000字、宋代<類篇>約31,000字、明代<字彙=字書>約33,000字、清朝<康熙字典>約46,000字、民国<中華大字典>約48,000字、中華人民共和国<漢語大字典>約54,000字、<中華字海>約85,000字とあります。
漢字は知らない字が圧倒的に多いと思います。したがってひとつの作品を作る場合は丹念に字書を調べることが大事です。特に草書作品を書く場合は注意が必要です。
北田岳洋先生が生前、「明代の草体は使わないように」と私たち初学者を今諫めた意味がこの頃ようやくわかってきたような気がします。
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